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久々にとある喫茶店に訪れた。

 

相変わらずマスターは満面な笑顔で迎えてくれて、

マスクを外した私を見て、「すごい久しぶりですね」と声を掛けてくれた。

 

暫く来ていない間にセットの種類が増えていたが、

いつもと変わらず、レアチーズケーキとコーヒーのセットを注文した。

まるでクリームのようで柔らかくて、酸味よりも甘みが勝るここのレアチーズケーキは、時々食べたい気分になる。

 

「雨が降り始めそうだねえ」

マスターは外を心配そうに見て、ポツリと呟いた。

確かに今すぐに降ってもおかしくないぐらいだ。私はその天候を知りながらも、甘いものをどこかで食べたくて、気がついたらついつい、此処に辿り着いてしまった。

 

「昔はねえ、あの辺りはみーんな田んぼだったんだよ」

 

窓の外を指差しながら、マスターはこの辺りの昔話をしてくれた。

私が来た場所と喫茶店の辺りまでは全て田んぼで、

田舎町だが、そこそこ大きい店が建ち並ぶところもまた50年以上前は皆田んぼだったこと。

 

「ほらあと、あの辺に公園とかあるでしょ…」

「ああ、あいさつ公園ですね」と言った時、

「えっ、あそこはそういう名前の公園なの?」と返されて、私は少し考えた。

 

私が小さい頃、公園でよく遊んでいたけれど、

待ち合わせが公園の時は名前がないと、どこの公園か分からないものだから、

もしかしたら私たちの周りの子が勝手に決めた公園の名前なのかもしれない、ということを伝えた。

 

「ああ、なるほどね。あいさつ公園かあ。

そこの公園はきっと、きちんと挨拶をする人が多いんだね。いいねえ」

 

マスターはそう言いながら、うんうん、と頷き、

きっと想像をしたのだろうか、また頷きながら微笑んでいた。

 

確かに、そこの公園は小学校の野球チームの練習場にもなっているから、

道ゆく人にきちんと挨拶をしているのかもしれない。

だから、あいさつ公園と名づけたのだろうか。